鑿(のみ)を買ったんだけど、このまま使ってもいいの?
今回はこんな疑問に答えていきます。
✔ 本記事の内容
- 「かつら」の仕込み
- 砥石
- 刃を付ける
今回は鑿が使えるようになるまでの3ポイントを解説していきます。大工歴25年なので信憑性はあると思います。
鑿を一本でも購入したら使う前にやらなければならないことがあります。誰にでもできることなのでしっかりやっていきましょう。自分は最初に買った鑿は八分鑿です。
今はどうかわかりませんが、自分が弟子入りしたころの大工業界ではだれも教えてくれないので、下積み期間のときに職人さんの使っている鑿を見て似たようなものを買ったのを覚えています。
その当時は鑿の仕立てとか研ぎ方とかは一斉知りません。給料も少なかったので一番安い鑿を買ったのをかすかに覚えています。その当時はスマホもなく、インターネットもあまり普及しておらず、調べることができませんでした。
なので知り合いの建具屋さんに仲の良い建具職人さんがいたのでそこで見て覚えました。その職人さんは建具屋さんの作業場に行くと、毎回ほとんどといっていいほど、鑿を研いでいました。その職人さんは近くで見てても怒らないやさしい方でした。でも無言で教えてはくれません。集中してるんでしょうけど。笑
そんなこんなで試行錯誤して今では自分でもできているので誰にでもできます。最初から上手くできる人なんていません。まずはある程度の知識を身に着けたらやってみることです!
仕立て
用意してもらうもの
- 初めて買った記念すべき自分のスーパーウルトラスペシャル鑿
- 軽く叩ければいい玄能(げんのう)
- 古くてもいい半丸鉄工ヤスリ
- 捨てそうな雑巾または布切れ
- 木のこっぱ(方言だったらすみません、切れ端)
- 砥石
「かつら落とし」
まずは「かつら」と呼ばれる柄の先端に着いたリングを取り外します。そのときに刃先で怪我をする恐れがあるので布を巻きつけます。そして「かつら」を柄の先端方向に玄能で軽く回しながら叩いていき完全に外します。
次に「かつら」の内側の返しがあるのですが、その部分を半丸鉄工ヤスリで軽く広げるように削り落とします。そして柄の先端、「かつら」の付いていた部分を半丸鉄工ヤスリで軽く平らに削ります。このときにできるだけ「かつら」の内側の返し跡が無くなるまで削るといいです。
それが終わったら、また「かつら」を元の付いていた位置に戻します。どちらも削っているので軽く入ると思います。そしてその「かつら」の周りを玄能で刃先のほうへしっかりと叩き落としていきます。このとき刃先の布を外し、木のこっぱに鑿を垂直に立たせて上から「かつら」を叩き落とすとやりやすいです。
このときに大切なのが「かつら」を柄の先端から3㎜位まで落とし込みます。そして3㎜出した柄の先端の端(外周)を外側に広げるように叩きつぶします。「かつら」の上に柄のつぶしたのが乗っかる感じです。そうすることで「かつら」が外れなくなります。
ここでもうひとつポイントがあるのですが、「かつら」を落とし込む際に鑿に対して水平に落とし込んでください。これが曲がったまま入ると外れやすく後々使いずらくなります。
上手く仕込めれば使っていくうちに「かつら」が下がっていきます。そして鑿を使うときは「かつら」を叩かずに柄を叩くように意識しましょう。「かつら」はあくまで柄の割れ防止と持ち手を叩く衝撃をやわらげるためのものです。
使っていくうちに「かつら」がグラついてくるときがきますので、その時はまた治してあげてください。これで「カツラ落とし」の完了です。鑿は古くなっても錆びても直せば使えます。なので末永く鑿を使ってあげてください。と言っている自分は最初に買った鑿はどこかへ旅立ちました。笑
保管方法
鑿の保管方法はセットで買った方は木箱か入れ物に入っているのでそのままでいいですが、単品で入れ物が無い方は単品であれば「鑿差し」、バラで何本か買いましたって方は「鑿巻き」を用意して保管することをおすすめします。
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昔は研いだ刃先は危険なので、刃先に蝋をつけて丸く固めて持ち歩いている方を見たことありますが、今はいろんな入れ物があるのでやっている人は最近見ないです。間違えて落としたときに刃こぼれ防止も兼ねてやっていたと思うんですが、今となっては面倒くさすぎです。
砥石
次に刃をつける作業に入るのですが、鑿を買ったあとそのまま使う人もいますが、鑿の場合、販売している時点では刃はついていません。なので原則、鑿を買ったら刃をつけることになります。
刃先を見るとわかるのですが、買ったときの刃の部分は鋭く尖っていません。なので砥石で研いで刃をつけてあげます。砥石は普通3種類で段階ごとに研ぎます。
砥石の種類
砥石の呼び名、種類は大きく分けて5種類からなります。
- 荒砥(あらど)
- 中砥(なかど)
- 仕上砥(しあげど)
- 天然砥石
- ダイヤモンド砥石
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それぞれの砥石の用途や特徴などを簡単な表にまとめましたので、こちらをご参照ください。
種類 | 粒度 | 解説 |
荒砥石 | #80~220程度 | 刃先の具合によるのですが、主に大きく欠けた時、最初に使う砥石。 |
中砥石 | #400~1500程度 | 主に荒砥石の次に使い、日々のメンテナンスに使う砥石。 |
仕上砥石 | #3000以上 | 主に中砥石で研いだ後にさらに鋭く切れ味を良くする時に使います。
粒度が細かいので、刃付けを鋭く細かく出来、切れ味が増大します。 鏡面仕上のようにすることもできます。 |
天然砥石 | 仕上砥石では満足できず、もっと切れるようにしたいというときに使います。自分は安い物しか持っていません。
値段も高く、天然砥石なので割れていることもあります。 ※天然の為、割れていても交換は出来ません。 |
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ダイヤモンド砥石 | 砥石より摩耗が極めて少なく、材質がとても硬く平らな状態を保てます |
自分は仕事柄全種類、複数持っていますが、はじめは、「中砥石」、「仕上砥石」の2つがあれば個人的には十分かとおもいます。
ダイヤモンド砥石以外は使っているうちに砥石も削れて減っていきます。そのまま減ったままで鑿を研ぐと刃が斜めについたり、正しくついてくれません。砥石は常に真っ平らにしておくことを忘れないでちょ。鑿を研ぐ前に砥石が平らか見ることを癖付けすることをおすすめします。
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砥石を定期的に平らにしてくれる治具もあります。昔はよくあるコンクリートブロックに水かけて強く擦り付けて平らにしていたんですが、めちゃ安いんですがデカくて邪魔。笑
研ぐ順序
砥石を使う前に準備が必要で、バケツかなにかの入れ物に水を入れて、砥石全体が水に浸るまで沈めて少し放置します。水に浸すと空気の気泡がでてきます。使い時のサインはこの気泡が無くなったころで時間的には10分~20分くらいです。
砥石に水を含ませないと、研いでいる最中に砥石が乾いてしまい水を吸って研ぎずらくなり、「研汁」がでてきません。この「研汁」が研磨の重要性を担っています。研ぐときは砥石が動かないように下に濡れタオルなどを敷いてその上で研ぎます。ズレ防止と研ぎ汁のキャッチですね。包丁を研ぐときも同じです。
順序は大きく刃先が欠けてしまった場合、ダイヤモンド砥石→中砥石→仕上砥石の順で研ぐといいです。ダイヤモンド砥石は高価なので無ければ、荒砥石からの順番になります。
自分は大きく欠けていなくて、切れ味が落ちたなって程度のときは、中砥石→仕上砥石でやってます。個人的に基本は荒砥石→中砥石→仕上砥石の3工程で鑿を研いでいます。鑿を何本も買って一気に全部やるとなるとけっこうな労力と時間がかかるので、何本かずつでいいかと思います。
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鑿研ぎの大変さを知ると、刃先がこぼれたとき絶望します。だけど、研いだ後の切れ味を実感するとテンションが上がります。研いだ後の切れ味チェックはよく新聞紙を縦に綺麗にスーっと切れるかどうかやるんですが、自分は新聞を購読していないので、自分の手の甲に静かに滑らし手の甲の毛が切れれば完了です。あくまで自分のやり方なので絶対に真似しないでください。
保管方法
砥石の保管場所は日陰で風通しの良いところです。間違っても日向に置かないでください割れます。自分は砥石の下に敷いてる汚い雑巾にくるんで保管しています。使うときはまたその雑巾を敷いて研ぐって感じです。
自分はバケツではなく砥石が3つ入る長方形のプラッチックの入れ物に汚い雑巾でくるんで入れてます。100均とかに売っているやつで十分です。
刃付け
鑿の刃の研ぎ方は基本的には包丁とか鉋とかといっしょです。鑿を研ぐ「刃付け」の順序を解説していきます。
裏押し
砥石の含水が終わったら、まずは裏押しという作業から始めます。新品の鑿の裏、平らな方は鍛冶屋さんによっても状態は違いますが、完全に平ではなく使い手が何度か裏押しを重ねて平面を作り出します。
裏押しというのは鑿の金属部分の平らな方をきちんと真っ平らにする作業のことです。きちんと真っ平らにするのですから、砥石も真っ平らでなくてはなりません。そこで砥石を使ってもいいのですが、砥石が真っ平らであれば問題ないのですが、新品以外だとたいてい使っているところが減ってへこんでいるためお勧めできません。
自分はダイヤモンド砥石が平らなので粒子の細かいほうで裏押しして中砥石→仕上砥石の順でやっています。ダイヤモンド砥石や真っ平らなものがなければ、台ならしした砥石でもぜんぜんオッケーです。ほんとは「金盤」という裏押し専用のものがあるのですが、高価なので自分は持っていません。
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やり方ですが、砥石でやるのであれば水を十分に含んだ砥石に水を2,3滴垂らし、基本的に右側に柄を持ち、刃先が左側に来て、砥石に対して直角に鑿を構え、上に乗る様にします、ここで大事なのは左手にやや力が入る様にして全体を抑え、刃先に力が集中するように前後にスライドさせて行います。
これを何度か繰り返し真っ平らになったなと思ったら、最後に仕上砥石で何度かやってピカピカになったら裏押し完了です。あまり難しく考えなくていいです。自分で見て平らになったなと思ったらそれでいいです。
真っ平らのチェック方法ですが、自分は裏押ししていくと、もちろん鑿が少しずつ削れていくわけですが、削れている部分が目に見えてわかります。削れていない部分は削れているとこよろり黒くなっているので、それが無くなるまで裏押しを続けて、無くなったら仕上砥石で裏押ししてピカピカにしてください。そして次に表です。
表
鑿の裏面が仕上がったら次に表を研いでいきます。ここでの砥石は大きく欠けていなく、買ってきた新品であれば中砥石→仕上砥石の順で研いでいきます。
そして十分水を含んだ中砥石で角度を30°に研いでいきます。新品の鑿であればそのままの角度で構いません。研ぎ方は右利きの方の場合のオーソドックスなスタイルは、右手で鑿の柄を握り持ち、左手の中指と人差し指で刃の先端を砥石に押し付けるように角度を合わせ押さえます。上手くいかない方は治具もあります。
そして角度をキープしながら、前後にスライドさせて研いでいきます。砥石が乾いてきたなと思ったらまた水を2,3滴垂らしましょう。水に手を入れて指から落ちる水滴で大丈夫です。
スライドストロークの幅というか長さなんですが、一般的には刃幅の3倍程度と言われていますが、個人的にはストローク時の角度の維持が命だと思っているので、自分のやりやすい幅でいいと思います。
最初の慣れないうちはロングストロークではなく、感覚を掴むことも考えて短めでいいと思います。慣れてきたら徐々に大きくしていくといいと思います。最初はゆっくりでいいので、前後にスライドさせましょう。
そうして研いでいくうちに裏の刃の先端部分に「返り」という裏刃幅全体がめくれあがります。指で静かに触るとめくれあがっている部分がわかります。それを砥石を変えて、仕上砥石で無くなるまで研いでいき、無くなったら裏を仕上砥石で仕上げて完了です。
何事も経験です。やっていくうちにだんだんとコツがわかってきますので、まずは始めてみましょう。
保管方法
研ぎ終わりましたら、セットで購入した方はそのまま木箱や入れ物に入れてしまうといいです。単品やバラで何本か買った方は、「鑿差し」や「鑿巻き」などにしまうといいです。刃物ですので、裸で置いておくことはおすすめしません。なにかしらの刃先の保護を行ってください。
おわりに
鑿は研いでいって地金が減っていき、首のところまで到達しない限りは一生使えます。また首のところへ到達しても柄が壊れてなければ、バラで金属部分の「替刃」と取っ手の部分の柄も売っています。
なので長く付き合おうと思えばいくらでも付き合ってくれます。この記事が誰かのお役に立てれば幸いです。