「昨日、夢を見なかったな。」
朝起きて、そう思ったことはありませんか?
ところが、本当に夢を見ていなかったのか、それとも単に覚えていないだけなのかは簡単には分かりません。
睡眠中に人を起こして夢の内容を尋ねる研究では、レム睡眠だけでなくノンレム睡眠から目覚めた場合にも、夢や夢に近い体験が報告されています。
また、夢を思い出せるかどうかは、目覚め方や個人差などにも左右されることが分かっています。
では、そもそも人はなぜ夢を見るのでしょうか。
この記事では、現在の睡眠研究で分かっていることと、まだ研究途中の仮説を分けながら、夢の不思議を紹介します。
実は「なぜ夢を見るのか」はまだ分かっていない
最初に結論から言うと、
人が夢を見る理由は、現在も完全には解明されていません。
脳科学や睡眠研究が進んだ現在でも、夢がどのように生まれ、どんな役割を持っているのかについては複数の考え方があります。
特に研究されているのが、
- 記憶との関係
- 感情との関係
- 起きている間の経験との関係
- 危険をシミュレーションするという仮説
などです。
つまり、
「夢にはこの役割がある」と一つに決まっているわけではない
というのが現在の研究に近い表現です。
理由1.記憶の整理と関係している?
寝ている間、脳が完全に活動を止めているわけではありません。
睡眠中には、起きている間に経験した情報に関連する神経活動が再び現れる「再活性化」などが確認されています。
睡眠が記憶の定着に関係していることは広く研究されています。
そして興味深いのが、夢にも起きている間の経験が入り込むことがあるという点です。
例えば、
今日見た景色
友達との会話
仕事で起きたこと
最近気になっていること
などが、そのままではなく、別の人物や場所と組み合わされて夢に登場することがあります。
実際、夢の内容と記憶の定着との関係を調べる研究も行われています。
ただし、
「記憶を整理した結果として夢が作られる」
とまで断定できるわけではありません。
2023~2024年の研究でも、夢と記憶の関係を示す結果がある一方、まだ一貫した結論には至っていないとされています。
理由2.感情とも関係している?
夢には、感情の強い出来事が登場することがあります。
嬉しかったこと。
腹が立ったこと。
不安だったこと。
楽しみにしていること。
こうした日中の経験や感情と、夢の内容との関係も研究されています。
2024年に発表された研究では、夢を思い出した人では、睡眠後の感情的な記憶や反応との関連が確認されました。
研究者は、夢が睡眠中の感情的な記憶の処理に関係している可能性を指摘しています。
ただし、
「嫌な夢を見ることでストレスが解消される」
などと単純に言えるわけではありません。
夢と感情がどのように関係しているのかについても、現在研究が続いている段階です。
理由3.夢は「危険の予行演習」?
もう一つ面白い考え方があります。
夢の中で、
追いかけられる
高い場所から落ちる
誰かから逃げる
何かと戦う
といった経験をしたことはないでしょうか。
こうした夢に注目したのが、
「脅威シミュレーション説」
です。
人間が夢の中で危険な状況をシミュレーションすることで、現実で危険に遭遇したときの対応を練習しているのではないか、という考え方です。
人類が長い進化の過程でさまざまな危険にさらされてきたことから提唱されました。
実際に、この仮説を支持する研究もあります。
一方で、予測と一致しなかった研究もあります。
そのため、
「追いかけられる夢を見るのは、脳が危険への対処を練習しているから」
と断定できる段階ではありません。
あくまで、夢を見る理由を説明する仮説の一つです。
「夢はレム睡眠だけ」は少し違う
「夢はレム睡眠のときに見る」
と聞いたことがある人も多いと思います。
確かに、レム睡眠から目覚めたときには、鮮明で複雑な夢が報告されることがあります。
しかし、現在ではノンレム睡眠中にも夢のような体験が起こることが分かっています。
実際、ノンレム睡眠中に参加者を起こして内容を尋ねた研究でも、夢の報告が得られています。
そのため、
レム睡眠=夢を見る
ノンレム睡眠=夢を見ない
と完全に分けるのは正確ではありません。
睡眠のさまざまな段階で、私たちは何らかの夢体験をしている可能性があります。
レム睡眠とノンレム睡眠の違いについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
▷レム睡眠・ノンレム睡眠の違いとは?眠っている間に脳で起きている驚きの秘密
「夢を見ない人」は本当に夢を見ていない?
「私はほとんど夢を見ません。」
という人もいます。
しかし、
夢を覚えていないことと、睡眠中に夢を経験していないことは同じではありません。
夢の研究では、睡眠中に参加者を起こして、その直後に何を経験していたかを聞く方法がよく使われます。
2025年に発表された69件の研究を分析したレビューでは、夢を思い出せる割合は睡眠段階だけでなく、
目覚めさせる方法
研究環境
個人差
などにも影響されることが報告されています。
つまり、
「昨日は夢を見なかった」
と思った夜でも、
実際には夢を見ていたものの、朝には思い出せなくなっていた
可能性があります。
面白い雑学① ケクレは本当に夢からベンゼン環を思いついた?
夢にまつわる有名な話があります。
化学者アウグスト・ケクレとベンゼンの環状構造です。
「蛇が自分の尻尾をくわえる夢を見て、ベンゼンが輪の形をしていることを思いついた」
という話を聞いたことがあるかもしれません。
ただし、この話は少し注意が必要です。
ケクレ自身が後年、この着想にまつわるエピソードを語ったことは知られていますが、現在では、その内容をどこまで史実として受け取れるのか議論があります。
つまり、
「夢を見た瞬間にベンゼン環を発見した」
と単純に説明するのは正確ではありません。
むしろ、この逸話そのものが、
「夢とひらめきの関係」
を考えさせる面白い歴史エピソードと言えそうです。
面白い雑学② 動物も夢を見る?
犬が寝ながら足を動かしたり、猫のヒゲや耳がピクピク動いたりする姿を見たことがあるかもしれません。
では、犬や猫も夢を見ているのでしょうか。
これは簡単には確かめられません。
人間の場合、
「どんな夢を見ましたか?」
と聞くことができますが、動物には聞けないからです。
ただし、多くの動物には人間と共通する睡眠状態があり、ラットでは起きている間に経験した行動に対応する神経活動が睡眠中に再び現れることも確認されています。
こうした研究から、動物にも夢に似た体験が存在する可能性が研究されています。
ただし、
「犬は散歩の夢を見ている」
「猫はネズミを追いかける夢を見ている」
といった具体的な内容までは分かりません。
いつか動物の夢を読み取れるようになったら、かなり面白いですよね。
面白い雑学③ 夢の中から研究者と会話した実験がある
夢を見ている途中で、
「あ、これは夢だ」
と気づくことがあります。
これを明晰夢(めいせきむ)と呼びます。
そして2021年には、かなり興味深い研究が発表されました。
レム睡眠中に明晰夢を見ている参加者に研究者が質問を行い、一部の参加者が眼球運動や顔の筋肉を使って回答することに成功したのです。
36人を対象とした実験で、6人から合計29回の正しい応答が確認されました。
つまり、
眠って夢を見ている人と、起きている研究者との間で簡単なやり取りが成立した
ことになります。
昔ならSFのような話ですが、現在では夢をリアルタイムで研究する方法も少しずつ生まれています。
明晰夢についてもっと知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
▷明晰夢とは?夢を自由に操れるって本当?仕組みと見る方法を解説
まとめ
人はなぜ夢を見るのか。
その答えは、まだ完全には分かっていません。
現在は、
- 記憶との関係
- 感情との関係
- 日中の経験との関係
- 危険をシミュレーションするという仮説
など、さまざまな角度から研究されています。
また、
夢はレム睡眠だけで起こるわけではない
ことも、現在の夢研究を知るうえで面白いポイントです。
さらに、明晰夢を利用して夢を見ている人と研究者がやり取りする実験まで行われています。
それでもなお、
「そもそも、なぜ私たちは夢を見るのか?」
という大きな疑問には、まだ決定的な答えがありません。
これだけ身近なのに、分からないことがたくさん残っている。
そこが夢研究の面白いところなのかもしれません。
もし明日の朝、夢を覚えていたら、少しだけ内容を思い返してみてください。
昨日の出来事や最近気になっていたことが、思わぬ形で混ざっているかもしれません。
関連記事

参考情報
- PubMed|夢の想起と目覚め方に関する69研究のレビュー
- PubMed|夢と感情的記憶に関する研究(2024)
- PubMed|脅威シミュレーション説に関するレビュー
- PubMed|ノンレム睡眠中の夢に関する研究
- PubMed|動物の夢に関するレビュー
- PubMed|明晰夢中の双方向のコミュニケーション実験


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