はじめに
「今日は3時間しか寝ていないけど、意外と元気。」
そんな経験がある人もいるかもしれません。
ただし、睡眠時間が不足すると、本人の自覚以上に注意力や反応速度などが低下することがあります。
睡眠不足が続いた場合には、記憶や感情への反応などにも影響することが研究されています。
この記事では、睡眠不足と脳の働きについて、研究で分かっている範囲を紹介します。
まずは「そもそも睡眠とは何なのか」が気になる方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
睡眠不足では脳の一部に「睡眠に似た活動」が現れることがある
人間の脳は体重の2%しかありませんが、体全体のエネルギーの約20%を消費しています。
つまり、ものすごく燃費の悪い臓器なのです。
長い時間起きていると、脳全体が完全に眠っていなくても、一部の領域で睡眠時に似た活動が現れることがあります。
こうした現象は「局所睡眠(ローカルスリープ)」と呼ばれています。
こうした局所的な睡眠に似た活動は、注意力や反応の低下と関連することが報告されています。
また、こうした変化を本人がはっきり自覚しないこともあります。
長時間起き続けると注意力や反応速度が低下する
睡眠不足の状態では、注意力や反応速度などが低下することがあります。
注意力や反応速度の低下は、運転など継続的な注意が必要な作業にも影響します。
ある研究では、17~19時間ほど連続して起きていた参加者で、一部の認知・運動課題の成績が、血中アルコール濃度0.05%程度のときと同程度またはそれ以下になりました。
少しずつの睡眠不足でも影響が積み重なることがある
「今日は少し寝る時間が遅くなっただけ。」
このような睡眠不足が続くと、影響が積み重なることがあります。
睡眠時間を制限した実験では、数日から数週間にわたって睡眠不足が続くと、注意力や認知パフォーマンスの低下が積み重なることが報告されています。
睡眠不足が毎日少しずつ積み重なる「睡眠負債」については、こちらで詳しく解説しています。
本人の感覚だけでは、パフォーマンスの低下に気づきにくい場合がある点も特徴です。
記憶は寝ている間に整理されている
勉強や仕事を頑張るために睡眠時間を削る人は少なくありません。
しかし、睡眠時間を削ることが学習に有利とは限りません。
睡眠は、学習や経験によって得た情報を記憶として定着させる過程に関わっています。
この過程は「記憶の固定(記憶の定着)」と呼ばれます。
睡眠不足は、こうした記憶に関わる働きに影響することがあります。
睡眠時間を確保することは、学習や記憶の面でも大切だと考えられています。
深い眠りと浅い眠りの違いを知ると、記憶が整理される仕組みもさらに理解しやすくなります。
▷レム睡眠・ノンレム睡眠の違いとは?眠っている間に起きている驚きの秘密
睡眠不足は感情の調整にも影響する
寝不足の日は、
- イライラする
- 落ち込みやすい
- 怒りっぽい
と感じたことはありませんか?
これは気のせいではありません。
脳には、感情への反応に関わる「扁桃体(へんとうたい)」という領域があります。
睡眠不足の状態では、感情に関係する扁桃体の反応が強くなったり、前頭前野との機能的なつながりが変化したりすることが報告されています。
そのため、睡眠不足の日には、感情への反応が普段と異なることがあります。
睡眠と脳内の物質を排出する仕組みとの関係
睡眠と、脳内の物質を排出する仕組みとの関係も研究されています。
この仕組みの一つとして注目されているのが「グリンパティックシステム」です。
睡眠中には、脳内のさまざまな物質の排出に関わる働きが変化することが研究されています。
深く眠るための具体的な方法については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
「寝だめ」は脳を元に戻せるのか?
平日は寝不足だから、休日に10時間以上眠る。
このような「寝だめ」をしている人も多いでしょう。
睡眠不足の後に長く眠ることで、眠気などが改善することはあります。
一方で、睡眠不足によるすべての影響が、一度の長い睡眠だけで解消されるとは限りません。
一度にまとめて眠るだけでなく、普段から睡眠時間を確保することも大切です。
平日と休日の睡眠時間のずれについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
▷ソーシャルジェットラグとは?休日の寝だめが危険と言われる理由
睡眠不足と発想力・問題解決能力の関係
睡眠と、発想力や問題解決能力との関係も研究されています。
一部の研究では、睡眠不足によって柔軟な発想や新しいアイデアを考える課題の成績が低下したことが報告されています。
一方で、睡眠と創造性との関係については研究によって結果が異なるため、睡眠によって必ず新しいアイデアが生まれるというわけではありません。
数秒間起こることがある「マイクロスリープ」
強い眠気がある状態では、「マイクロスリープ」と呼ばれる現象が起こることがあります。
マイクロスリープとは、ごく短時間、睡眠状態が入り込む現象です。
マイクロスリープが起こると、注意や周囲への反応がごく短時間途切れることがあります。
時速60kmで走行中に5秒間反応できなければ、車は約83メートル進む計算になります。
高速道路ではさらに長い距離になります。
睡眠不足による影響は日を追って積み重なる
睡眠時間を制限した研究では、4時間または6時間の睡眠機会を14日間続けた人で、注意力などの認知パフォーマンスが日を追って低下しました。
一方で、本人が感じる眠気は、客観的なパフォーマンス低下と同じようには増え続けませんでした。
この研究からも、睡眠不足による変化を本人の感覚だけで判断することが難しい場合があることが分かります。
| 睡眠不足でみられる変化 | 本人が気づきやすいか | 研究で示されていること |
| 注意力・反応速度の低下 | 気づきにくいことがある | 睡眠制限が続くと認知パフォーマンスが低下 |
| 記憶への影響 | 気づきにくいことがある | 睡眠は記憶の定着に関わる |
| 感情への反応の変化 | 比較的気づきやすい | 扁桃体や前頭前野の働きの変化が報告 |
| マイクロスリープ | 自覚しにくいことがある | 強い眠気の時に短時間の睡眠状態が入り込むことがある |
| 本人の眠気と実際の低下のズレ | 気づきにくい | 主観的な眠気と客観的パフォーマンスが一致しない場合がある |
睡眠不足を減らすために意識したいこと
就寝・起床時刻を大きくずらさず、できるだけ一定の睡眠リズムを保つことも一つの方法です。
また、寝る直前までスマートフォンを見る習慣も見直したいところです。
夜間の明るい光やスマートフォンの使用は、寝つきや睡眠時間などに影響する可能性があります。
寝る前のスマホが睡眠へ与える影響については、こちらの記事も参考になります。
また、就寝前のカフェインや飲酒は、睡眠に影響することがあります。
睡眠時間だけでなく、眠りやすい環境を整えることも一つの方法です。
まとめ
睡眠不足は、眠気だけでなく、注意力や反応速度、記憶、感情の調整などにも影響することが研究されています。
また、睡眠不足が続いた場合、本人がそれほど強い眠気を感じていなくても、認知パフォーマンスが低下していることがあります。
睡眠は単なる休息ではなく、日中の脳の働きとも関係しています。
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