「寝ている人に話しかけても、どうせ聞こえていないよね」
そう思ったことはありませんか?
結論からいうと、眠っている間も、耳から入った音の情報は脳へ伝わっています。
ただし、
音が脳に届くことと、起きているときのように内容を理解することは別です。
眠っている脳は、外の音を完全に遮断しているわけでも、すべてを意識して聞いているわけでもありません。
では、睡眠中の「聞く力」はどこまで残っているのでしょうか。
まず簡単に整理してみましょう。
睡眠中の音について
| 睡眠中の音について | 現在わかっていること |
| 音は脳まで届く? | 睡眠中でも聴覚刺激は脳へ伝わる |
| すべての音を意識する? | そうではない |
| 音によって脳は反応する? | 脳波などに変化がみられることがある |
| 大きな音なら必ず起きる? | 睡眠の深さや音の特徴などによって異なる |
| 聴いた内容を覚えている? | 音への反応と記憶は別 |
| 寝ながら勉強できる? | 音を流すだけで新しい知識を習得できるとはいえない |
眠っても、耳が完全に休むわけではない
眠りにつくと意識は大きく変化します。
しかし、耳が完全に機能を停止するわけではありません。
周囲で音が鳴れば、その振動は耳で受け取られ、神経を通じて脳へ伝えられます。
つまり、
「眠る=何も聞こえなくなる」
ではありません。
一方で、起きているときとは音の扱われ方が違います。
起きているときなら、
「車が通った」
「テレビの音がする」
「誰かが話している」
と意識できます。
睡眠中は音が脳へ届いても、そのすべてを意識するわけではありません。

睡眠中も「入口」は閉じていない、と考えるとわかりやすいでしょう。
睡眠中の脳は、音に反応することがある
睡眠中の人に音を聞かせながら脳波を調べる研究は以前から行われています。
そこからわかっているのは、眠っている脳も外からの音に反応することがあるということです。
ただし、どの音にも同じように反応するわけではありません。
たとえば、
- 音の大きさ
- 音が突然鳴ったか
- 音が続いているか
- そのときの睡眠の深さ
などによって反応は変わります。
日本国内でも、交通騒音や断続的な音を睡眠中に聞かせ、睡眠脳波への影響を調べた研究があります。
一定以上の騒音では、睡眠が浅くなったり、睡眠段階に変化がみられたりすることが報告されています。
つまり、本人が朝になって覚えていなくても、脳では音に対する反応が起きている場合があるのです。
音への反応は「眠りの深さ」でも変わる
一晩の睡眠は、ずっと同じ状態ではありません。
大きく分けると、
- ノンレム睡眠
- レム睡眠
が繰り返されています。
さらにノンレム睡眠にも、浅い睡眠から深い睡眠まで段階があります。
そのため、同じ音でも反応が変わります。
睡眠の深さと音への反応
| 状況 | 音への反応 |
| 浅い睡眠 | 音によって目覚めることがある |
| 深いノンレム睡眠 | 比較的目覚めにくい |
| 睡眠段階が変わる途中 | 外部刺激に反応することがある |
| 大きな音・突然の音 | 覚醒につながる場合がある |
「昨日は車の音で起きたのに、今日はまったく気づかなかった」
ということがあっても不思議ではありません。
音だけではなく、その瞬間にどのような睡眠状態だったかも関係するからです。
レム睡眠とノンレム睡眠について詳しく知りたい人はこちらも参考にしてください。
▷レム睡眠・ノンレム睡眠の違いとは?眠っている間に脳で起きている驚きの秘密
「聞こえる」と「覚えている」は同じではない
ここで気になるのが、
「脳に音が届いているなら、なぜ朝になると覚えていないの?」
という疑問です。
ポイントは、音への反応と記憶は別の処理だということです。
睡眠中に音が脳へ伝わり、脳波に変化が起きたとしても、その内容がそのまま意識的な記憶として残るとは限りません。

寝ている間も「情報処理」は完全には止まらない
睡眠中の脳は、電源を切ったパソコンのような状態ではありません。
日本の研究レビューでも、睡眠中は外部刺激への反応が低下する一方で、情報処理そのものが完全になくなるわけではないことがまとめられています。
ここが睡眠の面白いところです。
目を閉じている。
会話もしていない。
本人にはほとんど記憶がない。
それでも脳では活動が続いています。
ただし、
「寝ていても周囲の会話を普通に理解している」
という意味ではありません。
「外からの情報を完全には遮断していない」と考える方が正確です。
寝ながら英語を聞けば覚えられる?
睡眠中も音を処理しているなら、
「寝ている間に英語を流せば覚えられるのでは?」
と思うかもしれません。
ここは少し注意が必要です。
睡眠と記憶については多くの研究がありますが、
寝ている人に初めて聞く内容を流し続ければ、そのまま自由に使える知識として覚えられる
という単純な仕組みではありません。
一方、研究されている方法の一つに、
標的記憶再活性化(Targeted Memory Reactivation:TMR)
があります。
これは、
1. 起きているときに何かを学習する
2. 学習内容と特定の音などを関連づける
3. 睡眠中にその音を再び提示する
という方法です。
日本の研究レビューでも、睡眠中に学習時の音などを再提示し、記憶の再活性化を調べる研究が紹介されています。
重要なのは、先に起きているときに学習していることです。
つまり、
「寝ながら新しいことを丸暗記する」
というより、
起きている間に覚えた情報と、睡眠中の記憶処理との関係を調べている
と考える方が近いでしょう。
騒音は睡眠を邪魔することがある
睡眠中も耳からの情報が脳へ届くのであれば、寝室の音環境も無関係ではありません。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、良い睡眠のための環境づくりについて、光・温度・音などへの配慮が紹介されています。
また、日本睡眠環境学会誌に掲載された2023年のレビューでも、交通騒音などと睡眠への影響について研究結果がまとめられています。
特に、
- 車やバイクの音
- ドアが閉まる音
- テレビの音
- スマートフォンの通知音
- 突然大きくなる音
などは、睡眠を妨げる原因になることがあります。
自分の寝室の「音」をチェックしてみよう
睡眠中の音について知ったら、一度寝室を確認してみるのも面白いでしょう。
寝室のチェック
| チェックする場所 | 確認すること |
| 窓の近く | 車や人の声が入りやすくないか |
| スマートフォン | 夜中に通知音が鳴っていないか |
| テレビ | つけたまま眠っていないか |
| エアコン | 音が急に大きくならないか |
| 時計 | 秒針の音が気になっていないか |
| 寝床の位置 | 外や廊下の音に近すぎないか |
ここで大切なのは、
「完全な無音にしなければならない」という意味ではない
ことです。
一定の環境音が気にならない人もいれば、小さな音でも気になる人もいます。
まずは、
「夜中に目が覚めたとき、何か音がしていなかったか」
を確認すると、自分の寝室環境を見直すヒントになります。
寝室環境について詳しく知りたい人はこちらも参考にしてください。
睡眠中の「聞く力」を整理すると
最後に、よくあるイメージと現在わかっていることを比べてみましょう。
睡眠中の「聞く力」の整理
| よくあるイメージ | 現在わかっていること |
| 寝たら何も聞こえない | 聴覚刺激は睡眠中も脳へ届く |
| 音が届けば内容も全部理解できる | そこまではいえない |
| 音に反応したら必ず目が覚める | 睡眠状態などによって異なる |
| 覚えていない音には反応していない | 覚えていなくても脳が反応する場合がある |
| 寝ながら音声を聞けば勉強できる | 単純な睡眠学習とは異なる |
睡眠中の脳は、外の世界とのつながりを完全に切っているわけではありません。
だからといって、起きているときのように周囲の音をすべて聞き分けているわけでもありません。
音は届いている。でも、その扱われ方が起きているときとは違う。
これが、睡眠中の「聞く力」を理解するうえで一番シンプルな考え方です。
まとめ|眠っていても、脳は音の世界から完全には離れない
睡眠中でも、耳から入った音の情報は脳へ届いています。
そして音の大きさや変化、そのときの睡眠状態などによって、脳が反応することがあります。
一方で、
音が脳へ届くことと、その内容を意識したり記憶したりすることは別です。
眠っている脳は完全に停止しているわけではありません。
外の世界とのつながりを弱めながら、さまざまな活動を続けています。
普段は何気なく聞いている、
エアコンの音。
外を走る車の音。
遠くの話し声。
眠りについたあとも、それらの音が完全に消えているわけではありません。
「寝ているのに、脳は音に反応している」
そう考えると、毎日の睡眠が少し不思議に見えてきます。
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参考・出典
・厚生労働省「睡眠対策・健康づくりのための睡眠ガイド2023」
・鈴木博之「睡眠中の情報処理」生理心理学と精神生理学 2007
・笹澤吉明ほか「騒音環境が及ぼす睡眠,心身への影響―快眠のための騒音への対策―」睡眠と環境 2023

